コラム
2024.08.02
AIをイベントマーケティングにどう活用するか【海外事例】
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テクノロジーの進歩に伴い、消費者体験におけるデジタルとリアルの融合はますます進んでいます。
今やすっかり定着したタクシーの配車アプリから、コロナ禍をきっかけにいっそう普及したライブ配信イベント、さらに近年注目度が高まるメタバースに至るまで、もはや生活シーンの中でデジタルとリアルの境界を意識することはほとんどなくなっているといってもよいでしょう。
消費者はさまざまなサービスを利用する一連の体験の中で、デジタルとリアルをシームレスに行ったり来たりしながら生活するようになっているのです。
デジタルとリアルの融合が進むにつれ、小売業界などにおける店舗体験の考え方も変わってきています。
ECサイトやスマートフォン、QR決済などの普及により、消費者の購買行動が変化。従来では「SNSやメールでクーポンを受け取り、実店舗で購入する」といった形で、購買体験の中でデジタル・リアルは分断されていました。しかし、現在では「実店舗で試した商品をECサイトで購入し、商品のレビューをSNSでシェアする」といったように、一連の購買体験の中でデジタルとリアルが融合するようになっているのです。こうしたプロセスの中では、実店舗は単なる商品購入の場ではなく、商品に出会って興味関心を抱いたり、ブランドの世界観を感じたりするメディアとしても機能するようになっているといえるでしょう。
このことを踏まえ、昨今では実店舗でしか提供できない、五感に訴える体験の提供に特化した店舗が続々と登場しています。さらに、そうした実店舗での体験提供にデジタルテクノロジーを活用し、体験の幅を大きく拡張させている例も少なくありません。
以下では、デジタル・リアルを効果的に融合させた店舗体験を提供している事例を3つご紹介しましょう。
イギリスのデパートHarvey Nicholsの香港パシフィックプレイス支店では、NFTデジタルアートをリアルで販売するスペース「HNNFTボールト」を展開。ファッションメタバースの入り口となるような体験を提供しています。
取り扱う作品は「クリプトパンクス」や「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」など、いずれも著名なNFTプロジェクトからキュレーションされたもの。購入の際には、NFT作品の購入で一般的に用いられる暗号資産だけでなく、クレジットカードも使えるようになっています。NFTにあまりなじみのない人や、暗号資産を使ったことのない人でも気軽にNFTを体感でき、実際に購入しやすい仕組みになっているのがポイントです。
「親しみやすさ」や「信頼感」といった価値を提供できるリアル体験ならではの強みを、デジタル世界における小売に活かしたユニークな事例になっています。
ナイキによるコンセプトストア「House of Innovation」のパリ店舗では、オランダ発のデザイン会社MODEMとのコラボレーションで、試着コーナーにおける期間限定のキャンペーンを実施しています。
保護性能に優れた同ブランドの「FIT ADV」シリーズのアウターを試着した顧客が、店舗内にある巨大なディスプレイの前に立つと、さまざまな天候のシミュレーションがスタート。砂漠や雪山、嵐の中などの映像が映し出されるのに合わせ、風や気温、雨なども再現されます。また、シミュレーション時の様子を撮影した動画を、顧客が自身のSNSでシェアすることも可能です。
テクノロジーを活用した店舗体験を通じて「過酷な気象条件でもしっかり体を保護できる」という商品の特徴はもちろん、ブランドのコンセプトや世界観までをも表現している好事例です。
期間限定の取り組みのみならず、恒常的な顧客体験向上のためにも、ナイキはデジタルとリアルを融合させた仕組みを活用しています。
同ブランドのスマートフォンアプリでは、店舗に訪れた顧客が試着したい靴のバーコードを読み取ると、その店舗に在庫がある同じモデルのカラー、サイズバリエーションを瞬時に確認できるようになっています。実際に試着したい場合はアプリを通じてリクエストすると、店舗スタッフが商品を持ってきてくれる仕組みに。「ほかの色やサイズを試してみたいけれど、周りにスタッフが見つからない」「店舗スタッフと話さず、ひとりでじっくり試着したい」「店舗スタッフがバックヤードを行ったり来たりしている間の待ち時間が長い」といった顧客の悩みを解消しています。
テクノロジーの活用によって顧客体験を向上させているのはもちろん、店舗オペレーションを統一することで、快適な顧客体験の再現性を実現している点でも優れた事例だといえるでしょう、
このように、生活の中でデジタルとリアルの融合が進み、またテクノロジーの活用によって店舗で提供できる体験の幅が広がる中で、マーケティング施策における店舗体験の重要性は一段と高まっています。
とはいえ、テクノロジーを活用した店舗体験は、あくまでマーケティング的なゴールを達成するための手段。まずは「店舗体験の提供によって何を実現したいのか」「実店舗でのリアルな体験でこそ提供できる価値とは何か」といった部分を明確にすることが重要です。各企業の事業戦略や商品・サービスの特性によって、また店舗体験で実現したいゴールによって、設計するべき店舗体験は変わるはずです。そのうえで、いかにテクノロジーを活用して体験の幅を拡張できるかを探っていくのが有効でしょう。
自社の目標やブランドの世界観に合った形で、デジタル・リアルが融合した店舗体験を設計したいところです。