コラム
2024.08.02
AIをイベントマーケティングにどう活用するか【海外事例】
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小売業界で「店舗体験」が再び注目を浴びています。
店舗体験とは、消費者が来店してから、店内で商品を検討し、購入するまでの一連の流れのこと。
ECが台頭して以降、小売業界の実店舗は縮小傾向にありますが、一方で、新たな観点から店舗体験を提供する実店舗も登場しているのです。
この「体験型店舗」は、カスタマージャーニーにおける「商品の購入」以外のフェーズ、すなわち商品の認知や購入検討などの段階において、実店舗でこそ創り出せる「五感に訴える体験」を提供することで、顧客の行動や心理に変化を及ぼすタッチポイントの役割を果たしています。
例えば、従来は消費者がWebなどの広告を通じて商品を認知し、実店舗で商品購入する、といったカスタマージャーニーが一般的でした。しかし、現在では店舗体験を通じて商品を認知したり、商品に興味・関心を抱いたりしたのち、購入自体はECで行う、といったカスタマージャーニーも想定できるようになっています。
このような背景から、特に「モノ消費」より「コト消費」に重きを置くミレニアル世代やZ世代をターゲットとするビジネスにおいて、店舗体験に回帰したマーケティング戦略が採用されるようになっているのです。
実際に、カスタマージャーニーにおけるさまざまなタッチポイント施策として店舗体験を提供している海外事例を3つご紹介しましょう。
2018年にニューヨーク五番街で誕生した体験型の玩具店「CAMP」。
一見すると、ごくありふれたおもちゃ屋さんですが、実は陳列棚のひとつが隠し扉になっており、その向こうにはキャンプ場をモチーフにしたテーマパークが広がっています。
テントや自動車、滑り台などの遊具のほか、ラジオ局やディスコを模したコーナーもあり、来店した子どもたちが自由に遊ぶことが可能。またDIYのレクチャーやダンスパーティーなどのイベントも開催されています。
(参考:CAMP Instagramリール動画)
店舗に入る仕掛けからワクワクする演出を取り入れ、売場における購入の検討や購入体験自体をエンタメ化している「リテールテイメント」(小売+娯楽)の好事例だといえるでしょう。
なお、こうした玩具店のリテールテイメントは、ニューヨークではまったくの新しい取り組みというわけではありません。1889年創業の歴史ある玩具店「FAOシュワルツ」も、店舗体験にフォーカスした「夢を売るお店」として、世代を超えて愛されてきました。EC台頭の影響で2015年に一度閉店したものの、2018年に立地を変えて復活。店舗体験への回帰を象徴する出来事だといえます。
Condé Nast社による世界的ビューティーメディア(雑誌、Web)の『Allure』は、2021年、ニューヨークに実店舗「Allure Store」をオープン。メディアのメインコンテンツである「Best of Beauty Awards」の受賞商品を始め、美容のエキスパートである同誌編集者が企画ごとにセレクトした商品が、雑誌内のコピーと共に陳列されているのが特徴です。
( 参考:Allure Store紹介Instagramリール動画)
こちらでは、テクノロジーを駆使した体験に工夫が凝らされています。
例えば、各商品のQRコードを読み込むと、商品やブランドの詳細説明を参照できるほか、InstagramやTikTokで発信するインフルエンサーによる商品レビューを視聴可能。
また、商品のお試しにARを活用できたり、実際に商品を使ってメイクアップした様子をスマートミラーでキャプチャし、顔写真をスマートフォンへ簡単にシェアしたり、といった体験もできます。
さらに、商品の購入はQRコードからオンラインで行えるようになっており、顧客・店舗双方にとって効率的な仕組みになっています。
メディアを実店舗へと拡張し、商品の認知や比較検討の場をテクノロジーで演出して、顧客に360度の没入型ショッピング体験を提供することで、行動や心理の変容を促している事例です。
ハイブランドのディオールは、パリにある本店を2022年3月に全面改装し、創業者であるクリスチャン・ディオールの元邸宅を体験型の複合施設に生まれ変わらせました。
同ブランドでは世界最大のブティックに、さまざまな施設を併設。ギャラリーでは、過去にデザインされたドレスや、クリスチャン・ディオールの当時のオフィスなどが展示され、現在につながるディオールの歴史を感じられます。
体験型のアトリエでは、顧客ごとにカスタムデザインされたジュエリーに宝石を取り付けるワークショップに参加可能。さらに、有名シェフによるレストランやカフェのほか、24時間態勢のオーダーメイドサービスを受けられる宿泊施設まで備わっています。
こうした各スペースから内装に至るまで、店舗全体を通じてブランドのエッセンスが表現されています。
顧客がブランドストーリーに没入し、ディオールの魅力を再発見する空間として、店舗を機能させているといえるでしょう。
店舗体験は、自社のビジネスのどの部分にフォーカスするかによって設計の仕方が変わります。
Allure Storeでは化粧品という「商品」に、CAMPではおもちゃ販売という「事業」に、そしてディオール本店ではより大きな「ブランド」や「企業」に焦点を当てた体験を提供していました。
これらの事例のように、店舗で消費者に何を体験してもらうのか、そして店舗というタッチポイントをカスタマージャーニー上でどう位置付けるかがポイントになります。
形だけ体験型店舗を取り入れるのではなく、まずはカスタマージャーニーを含め、自社のビジネスで目指すべきところを整理しながら、店舗体験を設計したいところです。