コラム
2024.08.02
AIをイベントマーケティングにどう活用するか【海外事例】
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約3年にわたるコロナ禍を経て、イベントの在り方や考え方は大きく変化しました。それは、単に対面/リアルイベントの代替としてオンライン/バーチャルイベントが普及したというだけではありません。
そのもっとも重要な影響のひとつが、イベントテックの発展です。ZOOMやYouTubeといった汎用的なITツールに加え、ライブ配信機能やバーチャル会場機能、チケット管理機能を網羅的にカバーしたオンラインイベント運営特化ツールも台頭し、ごく一般的に使われるように。その結果、テクノロジーを活用したオンラインイベントならではのメリットも見出されるようになりました。「参加者、登壇者、運営者の利便性が向上する」「参加者のデータを収集・蓄積してマーケティングに活用できる」「チャットを活用した双方向コミュニケーションなど、テクノロジーを活用した新たなイベント体験が可能になる」といったものはその代表例です。
※イベントテックの事例についてはこちらから
同時に、リアルイベントならではの体験価値が再認識されたことも見逃せません。五感に訴えかける演出や、そうした五感での体験を同じ空間にいる参加者とリアルタイムに共有できる臨場感、一体感は、バーチャル空間では再現しきれないでしょう。
こうした背景から、アフターコロナではリアルイベントへの回帰が進む一方、テクノロジーを活用した新たなイベント体験への期待が高まっているのです。
リアルイベントにおけるテクノロジー活用の方向性には、次の2パターンがあると考えられます。
以下の海外事例をもとに、具体的に見ていきましょう。
1つ目の「イベント体験そのものの拡張」という観点では、テクノロジーの活用によって、リアルならではの没入感を一層高めている事例が多く見られます。その代表例が、没入型アート展示会です。例えば、北米を中心に欧州、アジアでも開催されている「Van Gogh: The Immersive Experience」(Fever社主催、2021年~)では、会場の壁と床360度に投影された映像と音楽で、ゴッホの絵画の世界を演出。さらにVIPチケットの観覧者は、VRで絵画の中に入り込んだような体験もできるようになっています。
別の事例では、ロングセラーのオンラインゲーム「Minecraft」のクリエイターであるノッチ氏が主催したクラブイベント「.party()」(2022年7月)が話題になりました。同イベントでは、著名アーティストらによる音楽と、30人以上のVFXアーティストによるリアルタイムのデジタルアート、そしてレーザープロジェクションを組み合わせ、ドーム型の会場全体にファンタジックな世界観を創造。レーザーアーティストらが使うレーザーを360台のカメラでリアルタイム分析してビジュアルを生成、投影するという、高度なテクノロジーが活用されています。
(参考サイト:事例紹介サイト)
いずれもイベント参加者が非日常的な世界に没入し、五感でアートや音楽を体感できるようになっているのが特徴です。
2つ目の「利便性向上」パターンについて、特に参加者側の便益を高める施策として注目したいのが、イベントの参加証明をNFTバッジにした「POAP」(Proof of Attendance Protocol、出席証明プロトコル)です。参加者はイベント運営者が発行したQRコードをスキャンするなどして専用のWebページにアクセスし、イーサリウムウォレットのアドレスを入力してPOAPを獲得。手に入れたPOAPはPOAPアプリ上にコレクションされ、いつでもイベントの思い出を振り返れるようになっています。
また、イベントによっては参加者が持つバッジの種類や個数に応じて特典を提供しているものもあり、POAPが参加者とイベント主催者との関係構築にも役立てられています。
(WEBサイト:POAPの作成ページ)
紙のチケット半券は保管が煩雑で、紛失してしまうこともしばしば。これに対してデジタルの特性を活かし、参加者がコレクションの楽しみをより味わいやすくなっているのが、同事例のポイントです。
イベント主催者にとっての「利便性向上」の意義が大きな事例としては、アメリカのDigital Seat Media社による「Digital Seat Tags」が挙げられます。こちらは、座席ごとに設置されたQRコードをイベント参加者がスマートフォンのカメラで読み込むと、さまざまなサービスを利用できるようになるというもの。例えば、フードやドリンクを注文したり、直近のイベント(コンサート、スポーツの試合など)開催予定を閲覧してチケットを購入したり、さらにイベントのスポンサーや広告主によるキャンペーンに参加したりできます。主催者側にとっては、チケットやグッズ、フードなどの販促、スポンサーの新規リード獲得といったメリットが期待できます。さらに、会場における参加者の購買行動や嗜好などのデータを蓄積し、マーケティングに活用することも可能です。
(WEBサイト:Digital Seat Tags )
リアルイベントの参加者データはチケットの購入データと一致していないケースも多く(特定の一人が複数人分のチケットを購入する場合など)、収集や分析は意外と困難。この課題に対して、テクノロジーを活用したひとつの解決策を提示している事例だといえます。
以上のように、テクノロジーはリアルイベントにおける体験設計の可能性を拡大しつつあります。裏を返せば、今後のアフターコロナ時代において、リアルイベントは今まで以上に高度な体験価値を求められるようになるといえるでしょう。
多様化するイベントテックのさらなる発展に期待しつつ、今こそリアルイベントの体験設計について改めて考えたいところです。